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教授ごあいさつ

教授ごあいさつ

清水一雄現名誉教授の後任として、2014年5月より、内分泌外科学分野の大学院教授を拝命いたしました。日本医科大学第二外科学教室の伝統に心より敬意を表するとともに、その発展のため力を尽くしたいと考えております。

経歴と人材育成への想い

私は大学を卒業して間もなく、1993年より癌研究会附属病院に勤務いたしました。これは日本の内分泌外科学のパイオニアである藤本吉秀先生(東京女子医科大学名誉教授、元国際内分泌外科学会会長)のお導きによるもので、先生は私を相手に惜しみなく、まさにマンツーマンの指導をしてくださいました。


毎週の講義はそのまま「いろはにほへと」(インターメルク社 1997年)という書物になりました(甲状腺・副甲状腺疾患診療の真髄を求めて、という副題に表現された哲学は現在でも色褪せることがなく、臨床実習の学生さんにも配布して読んでもらっております)。


藤本先生の教えは「外科医にとって大切なことは、ものを考えながら診療にあたることであり、治療の原点は病気の性質を深く理解したうえで、患者さんの苦痛や不安を軽減するところにある」というものでした。その教えに基づいて、甲状腺癌の本質を個々に見極め、患者さんごとに最良の治療方針を見出すことを目標とする診療と、その集約により臨床研究においてエビデンスレベル向上を目指す作業に邁進させていただいた日々は、本当に楽しく有意義なものでした。


内分泌外科学は甲状腺のみならず、副甲状腺や副腎といった臓器を分野横断的に扱い、腫瘍外科と機能外科の両側面を併せ持つ、大変魅力的な学問領域です。

しかし現在、この分野の将来を託せる若手は潤沢に育っているとはいえない状況にあります。そうした危機感を抱き始めた頃に、日本医科大学においてわが国最高レベルの内分泌外科学教室を創設された清水一雄前教授からのお誘いを受けました。


これまで臨床・研究に没頭させていただいた20年間にお世話になった多くの方々への恩返しのためには、人材育成を自分のミッションの中心に据えるべきであると考えて異動を決断し、2013年4月に本学に赴任いたしました。


外科医としての臨床的能力に加え、患者さんに対する説明・対話力、チーム医療における協調・リーダーシップ力、研究・発信力および教育力を兼ね備えたアカデミック・サージャンたること、それが自分の行動目標でもあり、若い外科医の育成目標であると考えております。

内分泌外科学の新展開

ところで、内分泌外科の世界には最近、ふたつの大きな変化の波が打ち寄せております。 ひとつは米国甲状腺学会(ATA)ガイドラインの大幅な改訂(2015年10月)により、これまで対立構図を示していた日本と諸外国の甲状腺分化癌に対する初回治療のやり方が、大きく融和の方向に動いたことであります。


従来、欧米では予後の良い甲状腺癌に対しても甲状腺全摘手術と補助療法の施行を徹底して推奨してきたのに対し、日本では生活の質(QOL)を重視した甲状腺温存手術を積極的に行ってまいりました。


今回の改訂では、リスクに応じた治療方針を徹底するという原則のもと、低危険度癌に対する甲状腺温存手術の適応が劇的に拡大されました。さらに、われわれや神戸の隈病院の先生方が行ってきた甲状腺微小乳頭癌に対するアクティブ・サーベイランス(非手術経過観察)の前向き試験の成果が全面的に採択され、「癌であっても手術しないで経過をみる」方針が認められました。


甲状腺検診による過剰診断、過剰治療の問題にも絡んで、日本の内分泌外科医の仕事が大きく評価されたわけです。苦手な英語で地道に発信し続けることで、世界の方向性を変えることができたのは、これから内分泌外科医を目指す若い人たちへの良いアピールになるでしょう。


もうひとつは、2014年6月のソラフェニブ(ネクサバール)の進行・再発甲状腺分化癌への適応拡大を端緒とする分子標的薬(TKI)の甲状腺癌治療への本格的参入です。皮肉なことにふたを開けてみるとTKIは当初期待したような「夢の新薬」などではなく、なかなかに扱いにくい薬でありました。


しかし、そのおかげでTKIの適正な使用のためには、高危険度癌に対する正しい初期治療や本当にTKIが必要な症例の見究めといった、内分泌外科医としての知識・経験が非常に重要であることがわかってきました。

2015年5月にはレンバチニブ(レンビマ)も発売となり、バンデタニブ(カプレルサ)も2015年内に保険収載される見込みです。これからの内分泌外科医には、しかるべきチーム医療の枠組みのもと、これらの薬を主体的に使いこなすことが求められます。


患者さんの利益になることはもちろん、若手医師のモチベーション向上のためにも望ましい状況と期待しております。

内分泌外科学教室の目標

  • 伝統を守りつつ幅広い診療体制を整備して、臨床経験をさらに増やすこと
  • 忙しい中でも一人一人の患者さんと向き合い、常に好奇心、向上心を持って未解決の問題に取り組めるような、心の余裕を持てる環境を整えること
  • 「若者が夢を語れる内分泌外科」の雰囲気を醸成すること

を目標に少数精鋭の内分泌外科スタッフとともに一致団結して臨床・教育・研究における責務を果たして参りたいと思います。 関係各科の先生方、各部署のメディカル・スタッフの方々におかれましては、今後さらなるご支援とご鞭撻のほど、どうぞよろしくお願い申し上げます。

患者さんへ

当科には、診療および手術の経験、技術に卓越した専門医が揃っております。どなたでも安心して、確実で安全な治療を受けることができます。 「がんは怖い」、「手術は恐ろしい」という先入観にとらわれる必要はありません。


病状と治療選択肢についての説明を十分にお聞きになり、納得したうえで判断してください。甲状腺がんの大多数は手術で治ります。甲状腺のがんや良性腫瘍、バセドウ病、副甲状腺や副腎の病気も、大きさや進行度などによっては内視鏡手術が可能です。もちろん、なんでも手術というわけではなく、病状によって、内科的治療や経過観察という方針も選択することができます。


一方、進行がんの場合であっても拡大手術や最新の分子標的薬治療、他科との連携による集学的治療などにより幅広く対応いたします。最善の治療方針は一人一人の患者さんの病気についての理解とご本人の自由な意思によって決まります。なんでもご相談ください。


内分泌腺(ホルモン産生臓器)の病気は思わぬ症状から見つかることがあります。腎・尿路の結石、骨粗しょう症などは副甲状腺疾患によるものかもしれません。若年性の高血圧や薬で治りにくい高血圧は副腎疾患かもしれません。気軽に受診してください。


今後いっそう多くの患者さんの診療を経験させていただくことにより、内分泌外科という、非常に専門性の高い領域の疾患に悩む患者さんのためにより良い診療ができるものと考えております。